「新健康フロンティア戦略」って何だ?

nationhealth_c昨日、マスコミでは、首相官邸直属の新健康フロンティア戦略賢人会議が、「新健康フロンティア戦略~健康国家への挑戦~」なる文書を発表したと報道していた。なにせ「賢人懐疑」、いや「県人会」、あ失礼「賢人会議」と自ら名乗るくらいであるから、さぞや素晴らしい戦略が策定されていることであろうと内容を見ると・・・・・・。

「健康国家」で「国民運動」な「フロンティア」

「これは一体何なんだろうか?」という素朴な疑念が最初に想起された。率直に言って、いったい何を解決するための「戦略」なのかがわからない。第一、「健康国家」という文言からして不明である。どのような歴史的国家観からこのような言葉が導き出されたのか。それをまず説明してもらいたいものだ。歴史的に見れば「健康」を国家的に標榜し、「国民運動」へ組織したのは戦前のナチス・ドイツであった。

復古回復史観の医療フロンティア

三つの批判点がある。まず、第一はこの「戦略」が未来へ向けてではなく、「懐かしき日本」への郷愁をベースに語られている点である。

「世代を通じて受け継がれてきた文化、伝統に根ざした生活の知恵が共有されることにより、家族力、地域力が向上し、そのような基本的社会活動力の形成があってこそ、日常生活の中から健康な個々人の生活が構築できる。現在、家庭が本来担うべき役割の重要性や、地域の学校、保健所、公民館、公園等に、子ども、子育て中の親、近隣住民、高齢者等が集まるというかつての姿(地域コミュニティ)を回復することの重要性が再認識されている。生活の中から健康な個々人の生活が構築できる。」(Ⅱ.戦略の基本的考え方)

「(美しき)文化、伝統」などを持ち出すのは、安部政権に恭順を表明するためか。それよりも、かつての日本的家族や地域コミュニティの「かつての姿」を「回復することの重要性が認識されている」とされているが、たとえ「郷愁の自由」を認めるとしても、歴史の歯車を逆に回すことは不可能である。今日の日本の地域コミュニティは「かつての姿」ではないが、それへの評価がどうであれ、それを「回復する」ことなど誰にも出来ないではないか。「美しいか、美しくないか」の審美的判断は各人にゆだねられようが、このような「回復史観」で「現在」を語ることを容認できるわけがない。

日本人は子供の集団か?

第二に、なぜ国家が個人の健康を「指導」までしなければならないのか。「国民は国家が指導・教育してやらなければ、とても自分の健康を保持する力はない」という基本視点が、この「戦略」のベースにあるのではないか。要するに国民を「自立した大人の個人」として認めず、子ども扱いしているのだ。今日、国家は「余計なおせっかい」をしてはいけない。医療制度の最適化へ向けた改革・改善は政府の責任である。しかし、健康とは畢竟、個人的問題であり、医療選択の自由、選択のための情報提供、コストとアウトカムの透明性などが社会的に確保されることがまず要請されるのであり、「国民を指導・教育する」などという老婆心的発想自体が前時代的である。

実現可能で実効的な施策になっているのか?

第三に、この「戦略」を誰が読んでも分かるのは、この「新健康フロンティア」なるものが一体いかなる経済的基盤と医療経済政策の上に実現されるのか、一言半句も述べられていないということである。今日の医療が直面する問題は「懐かしい地域社会」を回復することでもなく、また「健康的生活」をめぐって国民にお説教をたれ「指導・教育」することでもない。「よりよい医療パフォーマンスを、より安いコストでどう提供するか」という現実的問題であるはずだ。つまり、経済と市場の問題である。

今年から米国HHS(保健社会福祉省)が開始した医療改革プロジェクト
Value-Driven Healthcare」を、少しは研究してもらいたい。何でも米国がすべて良いとは言わないが、このプロジェクトの広報ウェブサイトにはHHSのマイク・レービット長官の次のような言葉がスローガンとして掲出されている。

“Every American should have access to a full range of information about the quality and cost of their health care options.”

「Value-Driven Healthcare」については、また別エントリーで改めて検討したい。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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