医療と市場

zakkicho

医療の現状を、市場原理の観点から見ると「競争のない市場」という姿が明確になってくるとNPCAの調査レポートでは指摘していました。これは米国の話しですが、日本はどうかと言えば、米国よりも一層「競争のない市場」であることは確かでしょう。
市場とイノベーション

競争原理を強化することで医療の効率性を高めるべきというNPCAの提言は、たしかに説得力を持つといえるでしょう。特にコストダウンと質の高度化という一見対立するかのように見える課題を、同時に実現せねばならないという局面では、役所が命令と統制の行使によって解決できることは限られており、むしろ競争原理をもとに現場が自発的にイノベーションを起こしていくほうが現実的でしょう。もちろん、現場のイノベーションのレンジを縛る規制を、出来る限り緩和しておくことが前提となります。

ただ、このような医療市場の競争促進論は、日本では米国よりも一層肩身が狭いのが現状でもあります。かつて厚生省が「医療はサービスである」と厚生白書で明記したのが、たしか,ほんの10年くらい前のことでしたか。医療をサービス業と、産業の一分野として捉えること自体日が浅いのであり、市場やマーケティングという観点から論じることもまだまだ十分に定着しているとは言えません。

つまり医療は、現在、まず「コストと質」という経済問題として現実的な解決を図らねばならないのに、なぜか「医療不信と医療崩壊」などという「解決不能な問題化」が喧伝されているように見えます。

課題限定

また、たしかに医療は、一方では「人間の生命を扱う」という側面を持ち、一方では「科学技術」という側面を持ちます。そこに、医療を特別視したり過剰期待する余地があります。「医療を他の産業と同一視してもらっては困る」とか「医者、病院に任せたら100%安全だ」とか、またこれらに似た多数の変奏曲は、「経済問題としての医療」という課題の特定化、あるいは課題の限定化を不可能にしてしまっているのではないでしょうか。これらによって、医療をめぐる諸問題は一層複雑な様相を呈し、一層その解決は困難になって行くかのようです。

このように考えてくると、なるほどNCPAが提起するような市場原理、競争原理はますます魅力的に見えてくるのです。なぜなら、その課題設定がシンプルであり、したがって課題解決も明解であるからです。

理念の視界不良

しかし、さらに次のような問いが発せられるでしょう。「はたして医療を全面的に市場原理に委ねて良いものか?」。では医療は現在の日本のように、国家統制のもとに全面的に委ねるのが正しい姿なのでしょうか。はたまた、市場でも国家でもない、「第3の道」が構想されるべきなのでしょうか?。このように、医療を理念的に定義し位置づけ直す作業も、実は社会の変化に対応して進められるべきものです。

でもそれが経済問題に限定できるのであれば、医療問題も「市場のことは市場に聞け」という原則で対処し改善を実施すべきでしょう。NCPAは「顧客をめぐる競争」が必要であると述べていますが、これは医療マーケティングのことを指していると言えます。他方、「理念」を論じる場をどのように設定すればよいか・・・・。ここは現在、まったくの視界不良です。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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