患者の目から見た医療ITサービス

PatientEyes
なぜギャップは存在するのか

前回ご紹介したように、インターネットを利用したサービスをめぐって、生活者が医療に求めるものと医療者が実際に提供しているものの間には、相当のギャップが存在しています。
インターネットが広く利用され始めておよそ10年以上経つわけですが、振り返って見るとこの間、多くの産業において生活者向けのサービスが多数開発され、徐々に浸透してきました。今となってはもう、いつの時期からそれらを使い始めるようになったか、当の生活者自身も判然しないほどに、それらのサービスは日常に根付き、最早それらを使って利便性を享受することが当たり前となっています。

ネットショッピング、ネットバンキング、トレーディング、オークションから飛行機、新幹線、ホテルの予約など。それに日常の連絡にメールを使うのも普通になっています。しかし、前回の調査結果にもあるように、医療業界では、まだこれら今日「当たり前」と目されるような基本的なネットサービスさえ提供されていないのが実情です。これは日本もアメリカも大差はありません。先日、あるアメリカ市民のブログには、「バンキング、ショッピング、予約など、インターネットで普通に提供されているサービスが、なぜ医療では提供されないのか!」と怒りのエントリーがアップされているのを目にしました。

フロントとバックヤード

いわゆる「医療のIT化」というものを考えて見ると、そこに二つの側面があるのが分かります。その一つは業務効率化のためのIT化であり、他は顧客サービス高度化のためのIT化といえるでしょう。前者はいわばバックヤードの領域にあり、普通は顧客から直接見えないものです。対して後者は、顧客フロントに位置し顧客に直接利便性を提供するものです。

ところが今日「医療のIT化」という場合、それはほとんど前者のバックヤードのIT化のことを指しているのです。電子カルテ、レセプト電算化、電子処方箋にEHRなど、これらはすべてバックヤードのIT化に含まれます。業務合理化のためのIT化です。もちろんこれらで扱われる情報は患者についての個人情報ですから、基本的に所属権は患者にあることを忘れてはなりません。つまりバックヤードのIT化に伴う情報システムでありながら、さらに患者から可視化される必要があるのです。

片や、顧客フロントのIT化はどうでしょうか。実は、ここはなぜか熱心に語る人をあまり見かけないのです。「医療IT化」ということからまるで除外され、語るに落ちるかのように邪険に扱われていると言っても過言ではありません。ところが顧客フロントに位置するので、ここの提供サービスの有無あるいは優劣は顧客に丸見えになっています。

他の産業におけるIT化をみれば分かるように、IT化はバックヤードの業務合理化を目指す側面と、顧客フロントに立ち顧客に目に見える利便性を提供する側面とは、過不足なく連続して設計され運用されているのです。顧客フロント側のIT化による利便性の高度化を図らなければ、顧客満足度とリテンションは低下し、ブランドロイヤルティの創造と顧客ロックインは達成されず、競争市場で敗北することが分かっているからです。

ところが医療業界だけが顧客フロント側のIT化を軽視しているために、昨日紹介した米国調査結果のように、生活者(顧客)ニーズと提供サービス実態の間に深刻なギャップを生じており、ひいては顧客の不満の源泉となっていることを理解しなければなりません。

昨日の調査結果を見ても、生活者が求めているのは「医師と直接メールのやり取りをしたい」、「オンラインで診療アポイントメントを取りたい」、「検査結果をオンラインで見たい」など、言ってみれば非常にプリミティブな要求です。バックヤードのeカルテ、eレセプト、e処方箋などに比し、「ロウテク&ロウバジェット」で対応できるものばかりです。即これらを実現すれば、目に見える利便性を生活者に提供できることになり、最終的に患者満足度とロイヤルティを上げることに寄与するのです。

フロントとバックヤードの一体開発

以前「なぜ進まない、医療のIT化」というポストでは、バックヤードの部分を問題にしましたが、実はこれらはフロントと同時に一体的に開発されなければ合理化と効率化による果実を得ることは難しいのです。ではどうしてフロント側を軽視し、バックヤードだけの議論になってしまうのかといえば、「患者軽視」がその発想の根っこにあるからでしょう。患者を「患者様」と呼び換え、「患者中心の医療」などという言葉を多用しつつも、やはり依然として「患者軽視」が根付いているからフロント・サービスの軽視となるのです。他の産業では考えられません。他の産業で「顧客軽視」をする産業があるでしょうか?。

三宅 啓  INITIATIVE INC.


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